AI小説「佐藤さんへの手紙」

佐藤さんへの手紙

松田卓也+Gemini 2.5 Pro

挿絵:GPT-4o

第一章:甘い勘違いのバレンタイン

二月十四日。校舎を吹き抜ける風はまだ冷たいけれど、どこか浮かれた空気が漂う日。高校二年生の俺、田中健二にとって、その日は朝から落ち着かない一日だった。そう、今日はバレンタインデーだ。
期待なんてしないように、と自分に言い聞かせてはいた。だが、心のどこかで、ほんの少しだけ、奇跡を願っていたのかもしれない。
昼休みが終わり、午後の授業が始まる前のざわめきの中、それが起きた。
「田中くん」
名前を呼ばれて振り返ると、そこにいたのは佐藤里美さんだった。クラスでも指折りの美少女で、明るく快活、誰にでも分け隔てなく優しい。もちろん、俺みたいな地味な男子生徒にも。彼女に密かな好意を寄せていた俺は、不意に名前を呼ばれただけで心臓が跳ねた。
里美さんは、少し恥ずかしそうに頬を染めながら、可愛らしいリボンで飾られた小さな包みを差し出してきた。
「あのね、これ…。いつもありがとう」
差し出されたのは、明らかに手作りとわかるチョコレートだった。頭が真っ白になる。え? 俺に? なんで?
「え、あ、いや…俺、何もしてないけど…」
しどろもどろになる俺に、里美さんはくすくす笑いながら言った。
「ううん、いつもノート見せてくれたりして、助かってるから。そのお礼」
そう言って微笑む里美さんは、窓から差し込む光の中で、まるで天使のように見えた。受け取ったチョコレートはずっしりと重く、温かい。それは彼女の気持ちの重さなのだと、俺の都合の良い脳みそは勝手に解釈を始めた。「もしかして、俺のこと…?」淡い、しかし強烈な期待が胸いっぱいに広がる。
「…あっ、ありがとう!すごく嬉しい!」
やっとの思いでそれだけ言うと、里美さんは「よかった」と安心したように笑って、友達の元へ駆けていった。
(やった…!やったぞ!)
単純な俺は、心の中で何度もガッツポーズを決めた。手の中のチョコレートが、未来への切符のように思えた。
よし、ホワイトデーには、この気持ちに応えよう。男を見せるんだ。俺はそう固く決意した。

第二章:運命のホワイトデー

バレンタインデーから一ヶ月。俺の心は、期待と不安で揺れ動いていた。あの日もらったチョコレートは、何度も眺めては大切にしまい込んだ。そして今日、三月十四日、ホワイトデー。決戦の日だ。
この日のために、俺はけっこう頑張った。なけなしのアルバイト代をはたいて、デパートでちょっと名の知れた洋菓子店のクッキーを買った。可愛いラッピングもしてもらった。そして、一番重要なのが、手紙だ。
『佐藤さんへ。もしよかったら、僕と付き合ってください。 田中健二』
便箋に向かい、ああでもないこうでもないと何度も書き直した、渾身のラブレター。里美さんへの想いを込めたつもりだった。これをクッキーと一緒に、彼女の下駄箱に入れる。直接渡すなんて、心臓がいくつあっても足りない。古典的かもしれないが、小心者の俺にはこれが限界だった。
放課後のチャイムが鳴ると同時に、俺は鞄を掴んで教室を飛び出した。目指すは昇降口の下駄箱だ。廊下を早足で進みながらも、心臓は早鐘のように鳴り響いている。
昇降口には、同じように誰かの下駄箱に何かを入れようとする男子生徒や、自分の下駄箱を期待して開ける女子生徒がちらほらいた。人の視線が気になる。
自分の下駄箱で靴を履き替えるふりをしながら、目的の場所を探す。二年生の女子の下駄箱が並ぶ一角。「佐藤、佐藤・・・」驚いたことに、うちの学年には本当に「佐藤」が多い。クラスだけでも二人いるのだから、学年全体ではもっといるのだろう。名簿で確認したはずの「佐藤里美」さんの下駄箱は…確か、この列の、このあたり…。
これだ、と目星をつけた下駄箱の前で、一瞬ためらう。同じクラスに佐藤が二人いる。右か左か? あれこれ考えた。下の名前からして右の下駄箱に違いない。見た目も右の下駄箱の方が綺麗だ。でも本当にこっちでいいのか? 間違ったら大変なことになる。でも、もう後戻りはできない。周囲に人がいないことを素早く確認し、持っていたクッキーの箱と、封筒に入れた手紙を、右の下駄箱の奥へとそっと滑り込ませた。カサリ、と軽い音がした。
よし、入れたぞ。
任務完了。顔がカッと熱くなり、心臓はまだバクバクと音を立てている。これで、俺の気持ちは伝わったはずだ。あとは、彼女からの返事を待つだけ…。

第三章:屋上の衝撃

ホワイトデーの翌日。俺は期待と不安が入り混じった気持ちで昼休みを迎えていた。里美さんからの返事はまだない。もしかしたら、直接何か言われるのかもしれない…。そんなことを考えて、教室で弁当を広げようとしたまさにその時だった。
クラスの男子が、ニヤニヤしながら俺の席にやってきた。
「おい田中、佐藤がお前を探してたぞ。屋上にいるってさ」
佐藤! その言葉に、俺の心臓は大きく跳ねた。里美さんに違いない。ついに、返事がもらえるんだ! 俺は期待に胸を膨らませ、弁当もそこそこに、勢いよく席を立った。
「サンキュ!」
礼もそこそこに、俺は屋上へと続く階段を駆け上がった。一段飛ばしで駆け上がりながら、どんな返事が待っているだろうか、と頭の中でシミュレーションする。OKだったらどうしよう、もしダメだったら…。
屋上へ続く、重い鉄の扉。少し錆び付いていて、ギィ、と音がする。深呼吸を一つして、扉を開けた。
「あの、佐藤さ…」
言いかけて、俺は言葉を失った。そこに立っていたのは、俺が想像していた人物とは全く違う、意外すぎる人物だったからだ。
春の強い風に、染めた明るい金色の髪がなびいている。耳には、安全ピンみたいなものも含めて、いくつものピアスがきらりと光る。制服は着崩され、スカート丈もかなり短い。
同じクラスの、佐藤茜。
学年でも札付きというか、素行が良くないことで有名なヤンキー女子だ。なんで彼女がここに? 里美さんはどこに?
茜は、俺の姿を認めると、何も言わずにこちらに歩み寄ってきた。その迫力に、俺は思わず後ずさりしそうになる。そして、俺の目の前に、無造作に突き出されたのは、見覚えのある水色の封筒…。昨日、俺が書いたラブレターだった。
「これ、あんたのでしょ」
地を這うような低い声。その声と、目の前にある手紙で、俺は瞬時に全てを悟った。
(しまった…! 間違えた!!)
全身の血の気が引いていくのが分かった。よりにもよって、クラスで、いや学年で一番関わりたくない相手に、俺は告白してしまったのだ。佐藤違い。最悪のミスだ。
どうする? どう言い訳すればいい? 「すみません、人違いでした」なんて言ったら、この場で何をされるか分からない。恐怖で喉が渇き、声が出なかった。全身が冷や汗でじっとりとしてくる。
俺が恐怖で固まっていると、茜は俺が震えているのを認めたのか、ふいっと視線を逸らした。そして、予想外の言葉を発した。
「…で、なんか言うことある?」
「え…?」
「だから! この手紙のこと、どうなんだって聞いてんの!」
少し語気を強めて言う茜の顔を、恐る恐る見上げる。すると、信じられないことに、風に吹かれる彼女の頬が、わずかに赤く染まっているように見えた。
まさか…? いや、そんなはずはない。これはきっと、何かのはずみだ。どうせ断られるに決まってる。だったら、下手に刺激せず、早く断ってもらってこの場を収めるしかない。早く、早く断ってくれ…! 心の中でそう祈りながら、俺はか細い、震える声で答えた。
「あ、あの…はい。手紙の、通り、です…」
すると、次の瞬間、茜は顔を耳まで真っ赤にして、叫ぶように言ったのだ。
「…っ! ありがたく、お前の気持ち、受け取ってやる!」
予想外すぎる、まさかのOKの返事。俺は完全に思考が停止した。受け取る? この俺の告白を? この佐藤茜が?
パニック状態の俺をさらに混乱の渦に突き落とすように、どこからともなく、茜の友人らしき派手なギャルたちが数人、わらわらと現れた。
「ヒューヒュー!やったじゃん、茜!」
「まじ? 田中と付き合うのかよー?」
「ついに彼氏ゲットかよー!」
「田中、見る目あるじゃん!こいつ、見た目によらずいいヤツだからさ!」
友人たちに囃し立てられ、茜は「うるせー! あんたらに関係ないだろ!」と顔を真っ赤にしながら彼女たちを軽く小突いている。その様子は、いつもの威圧的な雰囲気とはまるで違って、ただ照れているようにしか見えない。
屋上はお祭り騒ぎだ。完全に逃げ場を失った俺は、「まずいことになった」と、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

第四章:予想外の交際

こうして、俺、田中健二と、佐藤茜の、全く予想していなかった交際がスタートした。いや、スタートした、と言っていいのかどうか…。屋上での一件以来、学校中に「田中とあの佐藤茜が付き合い始めた」という噂が一気に広まってしまったのだ。訂正する勇気もタイミングもなく、俺はなし崩し的に「佐藤茜の彼氏」という立場に収まってしまった。
正直、すぐに愛想を尽かされるだろうと思っていた。だってそうだろう? 俺と茜の間には、共通の話題もなければ、趣味もまるで合わない。そもそも、俺はまだ彼女のことが少し、いや、かなり怖かった。話しかけるのだって緊張する。
ところが、茜の行動は俺の予想を裏切るものだった。
翌朝、教室に入ると、自分の席に座っていた茜が俺を見て、ぶっきらぼうに「…おはよ」と言った。周囲のクラスメイトが一斉にこちらを見る。顔が熱くなるのを感じながら、俺も小声で「お、おはよう…」と返すのが精一杯だった。
昼休みには、俺が一人で弁当を食べていると、いつの間にか茜が隣の席に座っていた。無言で、しかしすごい勢いで自分の弁当を食べている。何か話すべきか悩んでいるうちに、彼女は食べ終えてさっさと行ってしまった。なんなんだ、いったい…。
そんな奇妙な日々が続いた。茜は、見た目や噂通りの、少し乱暴な言葉遣いや態度は変わらない。けれど、時折、本当に些細な瞬間に、彼女の違う一面が垣間見えることがあった。
例えば、道端でうずくまっている捨て猫を見つけた時。普段の彼女からは想像もつかないような優しい手つきで撫でて、「腹減ってんのか?」なんて話しかけていたこと。
例えば、俺が数学の難しい問題に唸っていると、隣から「あ?そこ、公式違うだろ」とぶっきらぼうに指摘してくれたこと。ぶっきらぼうだけど、的確だった。茜がこんなに数学ができるなんて、俺より頭いいなんて、俺は予想もしていなかった。驚き以外の何者でもない。
極めつけは、俺が風邪で学校を休んだ日のことだ。夕方、家のチャイムが鳴ったので出てみると、そこには制服姿の茜が立っていた。
「え、佐藤さん? どうしたの?」
「…別に。今日のプリント。…ついでだし」
そう言って、彼女は無造作にプリントの束と、なぜかスポーツドリンクのペットボトルを俺に押し付けた。そして、「じゃあな」とだけ言って、すぐに背を向けて帰っていった。その時の、少しだけ赤く見えた耳と、照れたようなぶっきらぼうな横顔が、妙に心に残った。
気づけば、俺は茜と一緒にいる時間を、以前ほど苦痛だとは思わなくなっていた。彼女の隣にいる時の、あのピリピリとした緊張感にも、少しずつ慣れてきていた。いや、むしろ、その不器用な優しさに触れるたび、心地よさのようなものさえ感じ始めていたのかもしれない。
最初に想いを寄せていた、天使のような里美さんのことは、いつの間にか、遠い春の日の記憶の彼方へと霞んでしまっていた。人生って、本当にどうなるか分からないものだ。

第五章:一枚の手紙が繋いだ未来

あれから、十年以上の歳月が流れた。
俺、田中健二は、あの時の佐藤茜…いや、今は田中茜になった妻と、リビングで走り回る二人の子供たちと一緒に、賑やかな毎日を送っている。
高校を卒業し、なんだかんだで茜と同じ大学に進学し、そして、あれよあれよという間に結婚に至った。あの屋上での衝撃的な告白(?)の日から考えれば、信じられない展開だ。
妻となった茜は、ずいぶんと落ち着いた。高校時代のトレードマークだった金髪は、柔らかな茶色に変わった。耳にたくさんついていたピアスも、今はもう、耳たぶに小さなものが一つだけ控えめに光っている。
それでも、時折見せる勝ち気な表情や、ぶっきらぼうな言葉遣いの裏にある不器用な優しさは、あの頃と少しも変わらない。今では、そのギャップがたまらなく愛おしいとさえ思うのだから、不思議なものだ。
先日、クローゼットの奥から古いアルバムを見つけ、茜と一緒に眺めていた時のこと。アルバムのページの間から、一枚の色褪せた水色の封筒がはらりと落ちた。
拾い上げてみると、それは紛れもなく、あの日、俺が間違えて茜の下駄箱に入れてしまった、あのラブレターだった。
「うわ、懐かしいな。まだ持ってたんだ、これ」
俺がそう言うと、隣でアルバムを覗き込んでいた茜が、少し照れたように、でもはっきりとした口調で言った。
「当たり前でしょ。あたしの宝物なんだから」
彼女はそう言って、手紙を俺の手からそっと取り、大切そうに封筒を撫でた。その横顔は、あの日の屋上で見た、頬を真っ赤に染めていた少女の面影を、確かに残していた。
一枚の、勘違いから始まった手紙。
宛名を間違え、渡す相手を間違え、告白するつもりすらなかった相手にOKされてしまった、あの日の出来事。それが、こんなにも温かく、騒々しく、そしてかけがえのない未来に繋がるなんて、高校二年生の俺には、想像もできなかっただろう。
人生とは、本当に、どこでどう転ぶか分からないものだ。
俺は、隣でアルバムに視線を戻した妻の肩を、そっと引き寄せた。子供たちの元気な声が響くこのリビングの、この温かい日常が、あの日のとんでもない勘違いから始まったのだと思うと、なんだか無性に可笑しくて、そして、どうしようもなく、愛おしく思えるのだった。

【了】

主題歌『屋上の風と手紙』

作詞:松田卓也+ChatGPT 4o
作曲:Suno

二月の風が 頬をかすめて
君のチョコに 心が揺れた
淡い期待 ひとつ抱いて
君の名前を 書いた手紙

だけど差し出した未来(あした)は ちょっと違って
名前を間違えたラブレター
屋上で突きつけた 金髪の横顔
「これ、あんたのでしょ?」 心臓が止まる音

「…で、なんか言うことある?」
風に揺れた ピアスが光る
怖いはずのその声が
なんだか少し 震えていた

まさかのOK 空がまぶしくて
うるさい友達の 笑い声
照れ隠しの横顔 頬が染まってた
あの日の風が 二人を繋いだ

数学のノートの端に 小さく描いた未来
猫に話しかける 君の優しさ
気づけば君が 宝物になってた

色あせた手紙 一枚の奇跡
間違いだらけの青春が
今ではリビングに 笑顔を運んでる
「これ、あたしの宝物だよ」
君がそう言った日

屋上の風と 手紙の行方
すべてが 君に続いてたんだ

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