第1回シンギュラリティシンポジウム ⑤「次世代を生きる僕たちが創るもの」佐久間洋司

今日は錚々たる登壇者の中に混ざって、どうして一介の学生が講演をするのかと疑問に思っている方も多いのではないかと思います。しかしながら、本日お越しいただいた皆さんは、特に150名の学生の皆さんは、僕の話だけを聞いて帰ればいいのかもしれないという理由が一つあります。シンギュラリティが起こるという2045年に生きているのは、今日の登壇者で僕だけかもしれないということです。

「新しい時代を作るのは老人ではない!」という名言があります。誰が言ったかというと、シャア・アズナブル(ガンダム)の言葉だそうです。でもこの台詞ですら、僕たちはリアルタイムで聞いたことのない世代なのです。今日は僭越ながら、そんな世代を生きる学生の一人として、シンギュラリティに向けて一つの提案をさせて頂こうと思っています。
その基本となるアイデアは、学生自身が自分たちの未来について考えなければいけないというものです。その日を、シンギュラリティを迎えた時、大人は誰も責任は取ってくれないかもしれないのです。

ここに地球温暖化のイメージがあります。僕たちは地球温暖化が起こっているという事を知っていて、300年先には、もしかしたら地上が半分沈んでいたり、日本がほとんど砂漠になり、住めるのは限られた地域になっているのかもしれないということも知っています。頭ではわかっているのに、僕たちはまだ本気で取り組めていないことが多いのではないでしょうか。
同様のことがシンギュラリティについても言えると思います。究極の就職難時代や格差社会が来るかもしれませんし、もっとひどい世界を迎えるのかもしれないわけですが、それを防ぐために大人たちが全力で取り組んでくれていないとしても、それを責めることができないのは地球温暖化と同じ理屈です。

ただし、逆もあるのではないかと思います。地球温暖化を防ぐため、二酸化炭素の排出量を減らすことを目指して考えられた様々な技術の中には、水素自動車や太陽光発電などの発明があります。これらの発明は地球温暖化を止めるために役に立つ可能性を秘めていると考えられます。もしかしたら火星に逃げるためのロケットが救世主になるかもしれませんが、それもまた一つの可能性を開拓しています。
シンギュラリティの問題も同様に、シンギュラリティが起こるとは信じられていない時代に、必ず実現する、日本から起こすと主張している人々、そういった強い意志を持つ人達だけが新しい時代を切り拓くことができ、そういった人々が私たちの世界を救ってくれるのではないかと思っています。

そんな新しい時代を切り拓く人々を知ること、このような新しい世界を創り出していく人々の考えを知ることが、今を生きる学生にとって最も重要なことだと考えています。しかし、残念ながら日本にはそんな機会がありません。北米のように大学横断的な講義が行われているわけでもありませんし、オープンコースウェアなどを用いて発信していくという文化もありません。
そこで、そんな状況を変えるために、僕たち学生自身がそういう機会を創っていくということを目標に設立したのが「人工知能研究会 / AIR」です。こちらのロゴは、株式会社博報堂様からご寄付いただいたもので、人工知能が空気のように当たり前になった世界で、人と人が支え合うというメージが込められています。

人工知能研究会は、学生自らが次世代の人工知能研究・応用を支えていくことを目標に、幅広いテーマにおいて人工知能について様々な研究者の取り組みを知る場を提供することで、社会全体に広く人工知能の可能性を伝えていく啓蒙活動を行っています。
また、大学院生が学部生に教えていくことで「自己再生する人工知能のエコシステム」を構築していくこと、すなわち、次世代に向けた人工知能教育の基盤を築いていく活動にも取り組んでいます。

現在、AIR は大阪大学や京都大学を始めとした関西圏の学生、教職員および社会人を中心に500名以上の会員で活動しています。12月21日のオープニングセレモニーから半年間で、12件以上の講演会やチュートリアルなどを開催してまいりました。
今年度の最初から松下康之教授にご講演をいただいてから第1回とナンバリングを始め、幹事を務める大学院生によるチュートリアルや松田卓也先生によるご講演、パナソニックとの共催イベントなどを経て、本日のシンポジウムにまで至ります。八木康史副学長のお力添えもあり、今では大阪大学未来基金のプロジェクトとしても登録され、スポンサー企業の皆様からのご支援もいただくに至りました。

AIR がこれだけ大きく成長するまでに起こった奇跡的な出会いの数々に感謝するとともに、この研究会を創り上げた最初の4人のメンバーをご紹介させていただきたく思います。
最初の一人が、大阪大学産学連携本部の研究員の中村昌平さんです。ご自身のデザイン事務所のお仕事で活躍されながら、次世代を担う学生たちを育てるために身を粉にして様々な環境を作り上げてくださっています。人工知能研究会を立ち上げたいと伝えた際にも全力でサポートしてくださり、設立に際し多大なご支援をいただきました。
また、株式会社エクサインテリジェンスCTOの浅谷学嗣さんは、日本全体が深層学習で盛り上がるずっと前から独学で学ばれ、分野を問わず様々な研究成果をあげています。AIR のチュートリアル教材も作り上げ、現在は「人工知能ネイティブ」な子供たちを育てることを目指して独自のライブラリを開発しています。
大阪大学情報科学科の主席の宮崎祐太さんは、攻殻機動隊のような世界を実現することを目指して研究に取り組まれています。その圧倒的な知識と技術力を生かして、チュートリアルの講師やサポートをしてくださっています。また、指導教官である八木副学長とともに、大学基金におけるプロジェクトの運用にも取り組んでいます。
そして、先ほどご紹介した中村さんにご紹介いただく形で、竹澤拓朗さんとも出会いました。竹澤さんは TEDxOsaka の運営などを始め様々なイベントの企画と運営に携わられているだけでなく、昨年のドイツへの留学先で深層学習を学ばれています。AIR ではそれらの経験を生かして運営を率いてくださっています。

僕自身も、「世界から争いをなくす」という夢があります。壮大なミッションですが、それを達成するための必要条件を捉えていくことで、今できることをしていこうと努力しています。「争いのない世界」の形には様々な可能性がありますが、どんな場合でも争いのない世界に住む人々が必ず存在するわけです。僕は、現在の世界に争いが存在するのは、現在の人類が「争いのない世界に住む人々」ではないことが一つの原因であるのではないかと思います。
つまり、今を生きる人類がそのような世界に住む人々へシフトすることが必要であり、そのためには、人類にある種の「教育」が必要であると考えています。全ての人々に各々のメンターとして機能するものがあるとすれば、それはある個人ではなく人工知能しかありえない、そして、人々を教育するためには、人工知能には少なくとも「共感」する能力が不可欠だと考えています。
世界から争いをなくすことを夢に、人々が成長するための各々のメンター足り得る「共感する人工知能」を創り出し、世界に広めていくことを目指して、石黒浩教授のご指導のもと一歩ずつ研究活動に取り組んでいます。

この半年間でさらに多くの方々に加わっていただき、人工知能研究会 / AIR は、こんなメンバーで、それぞれが大きな目標を持って活動をしています。シンギュラリティや人工知能について考えてみようと思ってくださった方は、人工知能研究会 / AIR にご参加いただけましたら幸いです。
人工知能やシンギュラリティに対するアイデアは本当に様々だと思います。皆さんも、僕たちと一緒に次世代の人工知能について考えてみませんか?

人工知能研究会 / AIR 代表 佐久間洋司

(報告:大久保香織)

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*講演資料: