第2回シンギュラリティシンポジウム ①「シンギュラリティへの道」松田卓也

今からちょうど2年前に、ナレッジサロンで「シンギュラリティサロン」を始めた。シンポジウムは今回が第二回。第一回は昨年7月に開催し、PEZY computing社の齊藤元章さんに来て頂いた。今回はWBAI(全脳アーキテクチャイニシアチブ)の山川さん、高橋さん、そして駒澤大学の井上講師、経済産業省産業再生課課長の井上さんと、豪華な顔ぶれ。井上講師は昨年末、「100人」(註:『日経ビジネス』(日経BP社/2016年12月19日号)の連載特集「次代を創る100人」)の1人に選出された。「100人」の顔ぶれは他にトランプ大統領、プーチン大統領、メルケル首相、安倍首相だ(会場笑)。

【超知能の定義】
私のシンギュラリティの定義は「超知能のできるとき」だ。そこにおられる(註:神戸大学大学院工学研究科教授でシンギュラリティサロン共同発起人の1人)塚本先生が私の一冊目の人工知能についての著書の中にある、「人工知能が人間の能力を超えるとき」という定義は間違いだとおっしゃる。私はそれに同意している。では超知能とは何か?「人間ひとりよりも圧倒的に高知能な存在」だ。ではこれは機械なのか?知能増強された超人間なのか?私は後者だと考えている。(塚本先生を指さし)ヘッドマウントディスプレイを装着されたあの姿(会場拍手、笑)。あのスマートウォッチ、7本も付けてはるんですよ(会場笑)、まさに超人間です(笑)。人工知能が科学をやるというよりも人間と人工知能が融合して科学をやる、これがAI駆動科学だ。高橋さんがこの先駆者ですでに会社を作っている。これから世界が変わる。科学技術が圧倒的に進歩し生産性も圧倒的に向上する。ユートピアが訪れ人間は働かなくてよくなる。

【弱いシンギュラリティと新皮質派-情動と意思は人間が担う】
強いシンギュラリティ、弱いシンギュラリティという話がある。強いシンギュラリティは意識を持った機械超知能、人工知能のこと。ハリウッド映画の「ターミネーター」「マトリックス」の人工知能がその代表。これがAI脅威論のもとで、私は「ハリウッド的世界観」と呼んでいる。「弱いシンギュラリティ」と呼ばれる意識を持たない超AIと、人間が超人間となって融合してシンギュラリティを起こす、と私は考えている。このほうが作るのが簡単で、機械に人間が支配されることもない。もっとも、人間に人間が支配される可能性はある。人間は未知のものを恐れる性質がある。人間にも信用できないところはあるのに「(未知のAIより)人間に支配されているほうが、まあいいか」という心理的側面がある。弱いシンギュラリティ実現には、ハードとソフト両方が必要だ。ハードはPEZY社の齊藤社長の独壇場。私は「日本から」シンギュラリティを起こそうと日頃から申しているが、ハードは実現可能。

まずノイマン型のAI用スパコンは、齊藤さんが来年完成させるとおっしゃっている。脳型コンピュータも2年前に齊藤さんがNSPUを発表した。問題はソフトで、大脳新皮質のマスターアルゴリズムの解明が齊藤さん以外の我々に残された仕事。ここで、私は山川さんと高橋さんに少し楯を突こうと思う。お二人は「全脳アーキテクチャ」の代表と副代表で、大脳新皮質、大脳基底核、扁桃体、海馬、視床、小脳つまり脳を構成する全てをシミュレートしよう、しないといけない。そういう立場だ。質の悪いのは「情動」を持っている扁桃体だ。情動で最も大切なのは恐怖と怒りで、こんなものを人工知能に持たせていいのか?人工知能が人間ひとりの能力をはるかに超越するとき恐怖や怒りを持たせているとどうなるか。ロボットを一回殴ると十倍殴り返されることが起こり得る。従って私は、情動は人工知能には持たせないほうがいいと考えるが、反論されるのは自律的ロボットの必要性だ。自律性と情動は関係している。確かにその意味では必要性はあるが、AI脅威論のもとだ。

【弱いシンギュラリティ実現へのタイムテーブル】
「新皮質派」という話がある。全脳ではなく、新皮質+海馬+視床の構成で手を打とうというものでロボットでも人間でもない思考機械だ。これはニューメンタ社のホーキンスが提唱している。情動、意思は人間が担当しよう、というのが私の立場だ。この新皮質派のほうが実現も簡単なのだ。180PFLOPS(読み方:ペタフロップス)の齊藤スパコンが今年11月に完成し、人間の小脳のシミュレーションが実現する。これは電通大の山崎さんが手がけている仕事だ。2018年に現状より1000倍速いノイマン型齋藤AIマシンが完成し、2019年には1000PFの齊藤スパコンが完成する。現在のスパコンの京が10PFなので、それより100倍速いものを齊藤さんが作る。実はご本人は来年に完成させるとおっしゃっているが、私は2019年頃ではないかと考えて2019年にした。これが完成すると、人間の大脳のシミュレーションが可能になる。EU(欧州連合)のヒューマンブレインプロジェクトでは2022年を目標としているがその3年前倒しになる計算だ。2025年には1000億コア、100兆インターコネクトの脳型マシンの齊藤NSPUが完成する。この年に「自然言語処理ができる」と東京大学の松尾さんがおっしゃっている。2029年には汎用人工知能(AGI)が完成する。

これはカーツワイル(註:アメリカの未来学者)が「2029年にチューリングテストを人工知能がパスする」といっている。「攻殻機動隊」(註:士郎正宗原作の人気漫画)も2029年に設立される設定だ。

【超人間の全容】
機械新皮質はクラウド上で共有され、エッジ側では京コンピュータ程度の性能のAIマシンが手のひらサイズで使えるようになる。マン・マシン・インターフェイスは具体的にはスマートグラスとスマートコンタクトレンズ、つまり塚本先生だ。イーロン・マスクが提唱している神経レースは微細な注射針で人間の脳にレース状のものを注入し、脳内で展開させ、脳とコンピュータをダイレクトにコミュニケートさせる。視覚、聴覚、触覚までシミュレートできて、運動も担う。超人間には例えば、仮想秘書のSiriやハリウッド映画「her」のサマンサのようなAIのアバターが眼前に見える。遠方の人が見える例は、攻殻機動隊の(スピンオフのアニメ映画)「イノセンス」で描かれた遠隔会議だ。もっといいのは触覚付き遠隔デートで、実際には非接触だが体性感覚野に「触れた」と認識させてその実感が得られる。すると、最近発表された「キスのメッセンジャー」という触れ込みの「キッシンジャー」のようなデバイスが不要になる。超人間の運動野は、機械を直接制御できる。外部骨格つまりパワードスーツを装備し、思念でそれを制御できる。飛行機や自動車などの操縦も思念で可能で「エヴァンゲリオン」のように、ロボットも思念で制御できる。外部小脳があれば、習わなくてもなめらかな運動ができる。例えば習字なら稽古しないと上達しなかったが、外部小脳をつけると誰でも即、達筆だ。

【全世界が脳でつながる社会】
ベーシックインカム(BI)の導入は駒大の井上講師がおっしゃっているが、私はベーシックインテリジェンス(BI)を言いたい。超知能的なマシンができても、一部の富裕層限定で利用されるのは不公平である。そこで希望者には政府がべーシックインテリジェンスを供給するのだ。このBI×BIがシンギュラリティ後の社会だ。この社会はディストピアか?ユートピアか?ディストピアな面は、国民全員が引きこもりになることだ。バーチャルデートが実現する世界は、個人が「竜宮城」のようなハーレムを持つようなものだ。ユートピアな面は、全人類が思念でつながることだ。これまでは言語化しないとコミュニケーションできなかったが、思念で交流できる。「グローバル・ブレイン」といって全世界が脳でつながった状態で、齋藤さんのおっしゃる全地球型コネクトームだ。とはいえ、全ての人と実際にコミュニケーションが成立するかといえば疑問は残る。例えば私たちとイスラム教徒とで会話は成立するだろうか?彼らは常にアッラー・アクバルというのだから。

AI2オープンイノベーション研究所所長、神戸大学名誉教授
松田卓也

(報告:鳥山美由紀)

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