シンギュラリティサロン #33「意識をめぐる大冒険」(ジャパンスケプティクス共同開催)

概要
2019/03/10
13:30 – 14:10 講演1「意識は情報かアルゴリズムか? -20年後の意識のアップロードに向けて-」
渡辺 正峰氏 (東京大学大学院工学系研究科 准教授)

14:10 – 14:50 講演2「意識の理論を構築するための共通のフレームワーク」
大泉匡史 (株式会社アラヤ 基礎研究グループ マネージャー)

14:50 – 15:00 休憩
15: 00-15:40 パネルディスカッション「意識をめぐる大冒険(仮題)」

 登壇者
  渡辺正峰
  大泉匡史
  小林秀章 (セーラー服おじさん)

 モデレータ
  松田卓也(神戸大学名誉教授、シンギュラリティサロン主宰)

15:40 – 16:00 交流会

定員 100名(先着順・入場料無料)

講演概要

講演1「意識は情報かアルゴリズムか? -20年後の意識のアップロードに向けて-」
渡辺 正峰氏 (東京大学大学院工学系研究科 准教授)

 意識は一体何から生まれるのか。哲学者のチャーマーズは、すべての情報が意識を生む(「情報の二相理論」)と主張し、神経科学者のトノーニは、統合された情報にのみが意識を生む(「統合情報理論」)と主張している。最大の問題は、これら「意識の本質」にまつわる仮説を検証する術を我々が持たないことだ。素直に考えれば、意識を有する脳を用いて仮説群を検証すべきところだが[1,2]、生体である宿命から、仮説検証に必要な「意識の本質」の抽出が許されない。無理に抽出しようとすれば、今度は脳が死んでしまう。

 この壁を乗り越えるべく、機械へと意識を宿す試み、すなわち、アナリシス・バイ・シンセシスによって意識の本質へと迫る手法を取り上げる。ここで必須となるのは、機械の意識を検証する手法である。空気がなければ飛行機械の開発がままならないように、人工意識の検証法なくして、アナリシス・バイ・シンセシスによる意識の探求は成立しない。

 そこで、機械の意識を検証する手法として「人工意識の脳接続主観テスト」[3,4]を提案する。当該機械を自らの脳に接続することにより、自らの意識をもって機械の意識を”味わう”。ただし、人工網膜や人工鼓膜によっても感覚意識体験が生じてしまうように、単に脳に機械を接続すればよいというものではない。テストの可否を握るのは、機械に意識が宿った場合にのみ、脳との間で感覚意識体験が共有される機械と脳の接続のあり方だ。ヒントとなるのは、ロジャー・スペリーによって二つの意識が共存することが示された分離脳である。

 また「人工意識の脳接続主観テスト」を思考実験として用いることにより、情報に意識が宿るとするこれまでの仮説群の問題点を指摘し、その代案として、神経アルゴリズム(生成モデル)が意識を生むとする自身の仮説[5]を紹介する。

 最後に意識の機械への移植について議論する。上記、主観テストの方法を用いて機械と脳を接続し、いくつかの仮定が正しかったなら、20年後の意識のアップロードも視野に入ってくる。

[1] Watanabe, M., K. Cheng, Y. Murayama, K. Ueno, T. Asamizuya, K.
Tanaka and N. Logothetis (2011). “Attention but not awareness
modulates the BOLD signal in the human V1 during binocular
suppression.” Science 334(6057): 829-831.
[2] Watanabe, M.; Nagaoka, S.; Kirchberger, L.; Poyraz, E.; Lowe, S.;
Uysal, B.; Vaiceliunaite, A.; Totah, N.; Logothetis, N.; Busse, L. et
al.: Mouse primary visual cortex in not part of the reverberant neural
circuitry critical for visual perception. (in revision)
[3] Watanabe, M. (2014). “A Turing test for visual qualia: an
experimental method to test various hypotheses on consciousness.” Talk
presented at Towards a Science of Consciousness 21-26 April 2014,
Tucson: online abstract 124
[4] 渡辺正峰(2017)「脳の意識 機械の意識」中央公論新社
[5] 渡辺正峰(2010)「意識」『イラストレクチャー 認知神経科学―心理学と脳科学が解くこころの仕組み』村上郁也編、オーム社

講演2「意識の理論を構築するための共通のフレームワーク」
大泉匡史 (株式会社アラヤ 基礎研究グループ マネージャー)

意識の科学的研究が本格的に始まったのは1990年代頃からで、 神経科学者を中心に様々な実験的知見が集められ、意識研究は大き く前進した。しかしながら、未だに意識の本質的な理解には程遠い 状況である。この状況を打破するためには、 実験事実の蓄積だけではなく、実験事実を統一的に説明し、さらに 新しい現象を予測する力のある理論が必要である。現在、様々な意 識の理論が提唱されているが、そもそも意識の理論とはどのように 構築されるべきかに関して、共通のフレームワークが不足している と思われる。本講演では、意識の統合情報理論を一つの雛形として 考え、意識の理論を構築するための共通のフレームワークを提案す る。このフレームワークを元にして、意識の理論は今後どのように 構築され、検証されるべきか、そして理論の果たすべき役割とは何 かを議論する。最後に、意識の理論を元にして、 人間以外の動物の意識、あるいは機械の意識はどう評価されるべき かを検討する。

主催
シンギュラリティサロン
ジャパンスケプティクス

共催

株式会社ブロードバンドタワー、一般社団法人ナレッジキャピタル