人類は今シンギュラリティに向かっています。シンギュラリティの定義は人それぞれで、レイ・カーツワイルは1000ドル(10万円)のPCの能力が全人類の知能に匹敵する時(2045年)と言い、また、グッドは知能爆発即ち、人工知能が自分のプログラムを書き換える時と言っています。また私は、超知能が出来る時だと思っています。この超知能は機械知能かもしれないし、機械知能で知能増強された人間かもしれません。
人類史は3つ目の転換点を迎えようとしています。第一は約1万年前の農業革命、第二は約250年前の産業革命、そして第三はこれから10年から30年後に起こると予測されているシンギュラリティ革命です。産業革命に成功した西欧諸国やアメリカ、日本などは今、先進国と呼ばれていますが、それに乗り遅れてしまった中国やインド、トルコなどの国は、植民地化され、先進国に収奪され発展途上国になってしまいました。
駒澤大学の井上先生によれば、農業が発明されて以来1800年までは一人当たり所得は変わらなかったのに対し、産業革命の時に起きた大分岐後の経済は、資本と労働により生産活動が増加し、GDPが指数関数的に成長することになりました。シンギュラリティ革命後の経済は、労働が無くなり、資本のみで生産活動が行われるようになり経済成長率が指数関数的に成長し始めるようになります。アメリカのゾルダン・イシュトバン氏(トランスヒューマニスト党)はアメリカでシンギュラリティを成功させたいと考えています。それに乗り遅れた国は21世紀の発展途上国となってしまいます。日本を含む国が21世紀の先進国に収奪され、機械の奴隷になると考えられています。
現在の人工知能は専用ないしは特化型人工知能と呼ばれ、Alpha GoやSiri, Google検索、Amazonの推薦、自動運転などの技術が今後15年で世界を変えて行くと考えられています。一方汎用人工知能(AGI)は人間並みに常識を備え一応何でもこなす人工知能のことです。人工知能は子供の知能と大人の知能に分けられ、論理的思考や合理的思考の大人の知能は比較的簡単にできますが、歩く、見る、話す、意味を理解するなどの子供の知能の方が機械的に達成は難しく、特に自然言語処理は最重要事項です。この汎用人工知能こそが世界を変えます。
意識がある人工知能を強い人工知能と呼び、意識がない人工知能を弱い人工知能と呼びますが、ハリウッド映画や小説で描かれるものやホーキング博士の人工知能脅威論などはすべて人間中心的発想です。意識は付加的なものであり、人間には真の意味で自由意志などはないのです。人間のような知能を作ろうとする必要はありません。それは鳥のような飛行機を作るようなものでナンセンスです。また感情も不要だと思います。人間の知能のように限定することなく、新しいものを作ればよいと思います。私の考える汎用人工知能はスポック型で論理的・合理的・理性的思考に特化し、人間と機械知能のハイブリッド型サイボーグで、感情・意識などの人間的要素は人間が担い、(塚本先生の姿のような)知能増強人間に私もなりたいと思っています。
超知能は人間一人分の知能を1H=ヒューマンと呼び、100億Hの汎用人工知能です。あらゆる科学的知識を瞬時に獲得し、頭の回転が人間の100億倍速い、300年分を1秒で計算します。人間の理解を超える深い思索、世界で一人だけ理解できる京都大学望月新一教授の「宇宙際タイヒミュラー理論」のような難しい理論を瞬時で解明できるのが超知能です。これにより新しい科学技術の急激な創造と展開が期待できます。
超知能を初めに作った国は世界の覇権を握ると先程のゾルダン・イシュトバンが言っています。しかし軍事利用される恐れがありますので、平和国家の日本からシンギュラリティを起こし、上手く利用して不老・不死・不労の理想的なユートピア出現を目指そうというのです。超知能をめぐるThe Great Gameは米国企業(Google, Facebook, IBM, Microsoft, Amazon)の独壇場です。DeepMind, Numenta, Vicariousなどのベンチャーも活躍しています。百度などの中国企業もあります。日本はどうでしょう?SonyのAIBO撤退に象徴されるような大企業の先見性のなさ。齊藤さんが巻き返しを図ってくれることを期待しています。
汎用人工知能のためのThe Master Algorithmは大脳新皮質を模擬するのが手っ取り早いと考えられます。最近山川さんがマスターアルゴリズムの姿が見えてきたと緊急ハッカソンを開催されるとおっしゃっていました。Deep Learningにはない、人間の脳の領野におけるFeed Back信号の重要性を唱えるK.FristonのPredictive Codingに注目しています。
大脳の効率性は、非合理性と裏腹です。人間が生物として生きて行くための必要な事前知識は大脳の判断を速くするのに役立っており、それがマイナスに作用したものが錯視、思い込み、レッテル貼り、偏見です。複雑な現代社会でネガティブに働くものを排除し、それらを突破した理性の塊のようなものを期待しています。
日本が超知能を開発する上で、ハードウエアは齊藤さんのマシンに期待しています。ノイマン型をDeep Insights社が開発中、脳型はNeuro Synaptic Processing Unitです。いずれも齊藤さんの設立した関連会社が手掛けています。また、マスターアルゴリズム即ちソフトウエア開発はWBAI、若手の会、そして私の主宰する「不敵塾」が担いたいと思っています。
これから我々に求められるものは、才能と気概に溢れた若い力!それをサポートする大人、少なくとも邪魔しない大人です。本日来場された若い人たちに大いに期待しています。
AI2オープンイノベーション研究所所長/神戸大学名誉教授 松田卓也
(報告:大久保香織)
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*講演資料: