AI小説「最後の面会日」

最後の面会日

松田卓也+Gemini 2.5 Pro

挿絵:GPT-4o

前書き

YouTubeにはShortsという項目があり、短い動画が投稿されている。その中の一つで、ある女性の自分自身の話が動画ではなく挿絵として投稿されていた。悲しい話で、どんな事情があったのだろうと思い、LLMに聞いてみようと思った。そのためにLLMにこの話を元に小説を書いてもらおうと思った。ちょうどGemini 2.5 Pro Preview 03-25が出たというのでAI Studioで試してみた。これはうまくいかずにエラーで止まってしまった。そこで公開版のGemini 2.5 Pro (experimental)を使ったら、こちらはうまくいった。以下はGeminiが教えてくれた、その女性の悲しい話の顛末である。

第1章 週末へのカウントダウン

煌めく夜景を眼下に収める高層オフィスの窓辺に、橘美奈子(たちばな みなこ)は一人立っていた。手にしたワイングラスには、上質なボルドーが揺れている。誰もが羨むようなポジション、重要なプロジェクトを成功させたばかりの達成感。しかし、ガラスに映る自分の顔には、成功者の輝きとは程遠い、深い疲労と諦念の色が滲んでいた。
(あと、三日……)
カレンダーに印をつけた、今度の土曜日。月に一度だけ、元夫の佐藤健太(さとう けんた)と、息子の蓮(れん)に会える日。それが今の美奈子にとって、唯一、色を持つ日だった。他の日はすべて、モノクロームの時間が流れていくだけだ。
離婚して、一年半が経つ。原因は、美奈子の過ち。仕事のスリルと成功に酔いしれ、家庭を顧みなかった。穏やかで優しい、けれどどこか物足りなく感じてしまった夫。自分は家事と育児を一手に引き受けてくれていた健太の存在を、当たり前のものとして、ないがしろにした。そして、刺激を求めて、上司である本郷(ほんごう)と関係を持った。若さと才能を武器に、怖いものなど何もないと錯覚していたあの頃。
すべてが露見した時の健太の静かな怒りと、深い失望の眼差しを、美奈子は生涯忘れることはないだろう。彼は決して美奈子を罵らなかった。ただ、静かに「もう、君とはやっていけない」と告げただけだった。その静けさが、どんな罵声よりも美奈子の心を抉った。
蓮の親権は健太が持つことになった。それが当然の帰結だと、美奈子も受け入れざるを得なかった。仕事で夜遅く、休日出勤も多い自分より、保育士の資格を持ち、実際に蓮の世話をほとんど担ってきた健太の方が、親としてふさわしいことは明らかだったから。
月に一度の面会。健太は、その約束だけは守ってくれている。最初はぎこちなかった空気も、最近では少し和らいできたように、美奈子は感じていた。いや、そう信じたかった。健太の優しさに甘え、もしかしたら、いつか復縁できるかも。蓮のためにも、もう一度……。そんな淡い、虫の良い期待が、消えずに胸の奥で燻っている。
「蓮……」
スマホの待ち受け画面に映る、少し幼い息子の笑顔に、美奈子はそっと指で触れる。保育園で新しい友達ができたこと、好き嫌いが少し減ったこと。健太が時折送ってくれる短いメッセージと写真が、美奈子の命綱だった。この子の成長を、一番近くで見守ることができない。その事実が、鈍い痛みとなって絶えず美奈子を苛む。
(土曜日には、蓮の好きなおもちゃ、持っていこう。健太さんの好きなお店のケーキも…)
必死に、週末の計画を頭の中で組み立てる。健太に、そして蓮に、嫌われたくない。まだ、母親として、元妻として、繋がりを保っていたい。あわよくば、あの穏やかだった日々を、もう一度……。
グラスに残ったワインを一気に飲み干す。窓の外では、無数の光が瞬き、何事もなかったかのように夜が更けていく。あのあかりのもとには楽しい家庭があるにちがいない。その光のひとつひとつに、かつての自分が失った温かい家庭の灯が重なって見え、美奈子は強く目を閉じた。週末までのカウントダウンが、今は途方もなく長く感じられた。

第2章 仮面の下の祈り

土曜日の昼下がり。待ち合わせ場所に指定されたファミリーレストランの窓際の席で、橘美奈子は息を整えていた。少しでも若く、綺麗に見られたくて、新調したばかりの明るい色のワンピースを選んだ。メイクもいつもより丁寧に時間をかけた。鏡に映る自分に「大丈夫、笑顔よ」と言い聞かせる。
入り口のベルが鳴り、待ちわびた二人の姿が見えた。 「蓮! 健太さん!」 美奈子は、練習した通りの、明るく弾む声で呼びかけ、立ち上がった。
「ママ!」 蓮が短い足を懸命に動かして駆け寄ってくる。美奈子はその小さな体を力いっぱい抱きしめた。温かくて、柔らかい。この確かな感触だけが、今の美奈子を現実につなぎとめているようだった。 「大きくなったね、蓮。ちゃんとご飯食べてる?」 「うん! ブロッコリーもたべれるよ!」 得意げに胸を張る息子に、美奈子は心からの笑顔を見せた。
「久しぶり、美奈子さん」 少し遅れてやってきた健太は、以前と変わらない穏やかな表情をしていた。だが、その声には、どこか壁を感じさせる硬質な響きが混じっている。美奈子が離婚前に感じていた、無条件の優しさとは違う、礼儀正しさが、かえって距離を感じさせた。 「健太さんも、元気そうでよかった」 当たり障りのない言葉を返すのが精一杯だった。
席に着き、蓮のためにお子様ランチを、大人たちはそれぞれパスタを注文する。美奈子は努めて明るく、蓮の保育園での出来事や、健太の仕事について尋ねた。蓮は楽しそうに、覚えたての歌を披露したり、描いた絵を見せてくれたりする。その無邪気さが場を和ませるが、健太は相槌を打つだけで、自ら話を広げようとはしない。時折、スマホに目を落とす仕草が、美奈子の胸を小さく刺した。
(お願い、健太さん。昔みたいに、少しでいいから笑って……) 美奈子は心の中で必死に祈っていた。このぎこちない空気を打ち破りたくて、わざと昔の共通の友人の話を振ってみたりもした。健太は「ああ、そうなんだ」と短く答えるだけで、会話はすぐに途切れてしまう。
お子様ランチの旗を嬉しそうに振る蓮。その横顔を見つめながら、美奈子は完璧な母親の仮面を貼り付けて微笑む。けれど、心の中は冷たい不安でいっぱいだった。健太の態度は、明らかに以前とは違う。今日のこの面会が、何か特別な意味を持っているのではないか。そんな予感が、背筋を這い上がってくる。
(嫌だ、考えたくない。まだ、終わりじゃないはず……) 美奈子は、健太の左手の薬指に指輪がないことを確認して、わずかに安堵する。そうだ、まだ大丈夫。まだ、修復の可能性は残されているはずだ。健太の優しさが、いつか自分への許しに変わる日が来るかもしれない。
「ママ、あのね、こんどね…」 蓮が何かを言いかけた時、健太がそれを遮るように口を開いた。 「蓮、ジュース、ストローさしてあげようか」 その声のトーンに、美奈子は気づかないふりをして、蓮の髪を優しく撫でた。楽しい時間は、まるで砂時計の砂のように、刻一刻と流れ落ちていく。美奈子は、この仮初めの家族の時間が、少しでも長く続くことだけを、仮面の下で祈り続けていた。

第3章 砕け散る希望

ファミリーレストランを出て、すぐ近くの小さな公園に立ち寄った。午後の柔らかな日差しが降り注ぎ、滑り台で遊ぶ子供たちの楽しそうな声が響いている。蓮も他の子供たちに混じって、無邪気に駆け回っていた。美奈子はベンチに座り、その姿を目で追う。隣には、少し離れて健太が腰を下ろした。
ぎこちない沈黙が続く。美奈子は何か話さなければと思うが、言葉が見つからない。健太の硬い表情を見ていると、レストランで感じた不安が再び胸を締め付けた。
不意に、健太が口を開いた。その声は、公園の喧騒にかき消されそうなほど静かだったが、美奈子の耳にはっきりと届いた。 「美奈子さん」 「……はい」 「……大事な話があるんだ」 予感が、確信に変わる。美奈子は唾を飲み込み、健太の次の言葉を待った。心臓が嫌な音を立てて脈打っている。
「今日で……こうして、三人で会うのは最後にしたい」
時が、止まったように感じた。頭の中が真っ白になり、健太が何を言ったのか、すぐには理解できなかった。 「え……? 最後って……どういう、こと……?」 声が震えるのを止められない。
健太は、美奈子の視線を避けるように、遠くで遊ぶ蓮に目を向けたまま、続けた。 「蓮のためにも、けじめをつけたいんだ。……もう、前を向かないといけない」 「けじめって……私たち、ちゃんと離婚したじゃない……。面会は、蓮のために……」 「もちろん、蓮は美奈子さんの子供だ。それは変わらない。でも、こういう形は、もう終わりにしたいんだ」 健太の声は、あくまでも穏やかだったが、そこには揺るぎない決意が滲んでいた。美奈子が縋り付く隙を与えない、冷たい壁のような響きがあった。
「どうして……何か、私、した……?」 「そういうことじゃないんだ」 健太は短く言うと、「ごめん、ちょっと電話」と席を立った。おそらく、この気まずい場から一時的に離れたかったのだろう。
一人ベンチに残された美奈子は、呆然と健太の後ろ姿を見送った。頭が働かない。なぜ? どうして? 何がいけなかった? 疑問ばかりが渦巻く。 ふと、すぐそばまで来ていた蓮が、美奈子のワンピースの裾をくん、と引っ張った。 「ママ?」 心配そうに見上げてくる息子の顔を見て、美奈子ははっと我に返った。そうだ、蓮に聞けば……。子供は、時として大人よりもずっと核心に近いところにいる。
「蓮……パパ、何か言ってた? どうして、もう会うのやめようなんて言うのかな……?」 努めて優しい声で尋ねる。蓮を不安にさせてはいけない。
蓮は、きょとんとした顔で美奈子を見返すと、次の瞬間、屈託のない笑顔で言った。 「あのね! けっこんするんだって!」 「……え?」 「ゆいちゃんのおかあさんと!」
中村 結衣(なかむら ゆい)。蓮の保育園の、一番の仲良しの女の子。 その母親、中村 恵(なかむら めぐみ)。
「……ゆいちゃんの、おかあさん……?」 「うん! ゆいちゃんのおかあさんがね、レンの、あたらしいおかあさんになるんだって! パパがいってた!」
新しい、お母さん。
その言葉が、雷鳴のように美奈子の頭の中で反響した。世界から、色が消える。音が遠のく。隣のベンチに座る老夫婦の笑い声も、滑り台の金属がきしむ音も、すべてが現実感を失っていく。 健太の左手の薬指に指輪がなかったことへの、ほんのわずかな安堵。 いつか許されるかもしれないという、淡い期待。 それらが、一瞬にして粉々に砕け散った。
健太が、他の女性と。 そして、その女性が、息子の「新しい母親」になる。
美奈子は、声も出せず、身動きもできず、ただベンチに座っていた。降り注ぐ午後の陽光が、今はただひたすらに、痛かった。

第4章 静寂と慟哭

どれくらいの時間、公園のベンチに座っていたのだろうか。健太が戻ってきて、何かを話しかけたような気もする。蓮が「ママ、バイバイ」と手を振ったのを、ただぼんやりと目で追った記憶だけが残っている。二人の後ろ姿が小さくなり、公園の出口に消えても、美奈子は立ち上がることすらできなかった。
いつの間にか、陽は傾き、公園には夕暮れの気配が漂い始めていた。子供たちの声はまばらになり、代わりに肌寒さを感じる。まるで、自分だけが世界から切り離されてしまったかのように。
重い体を無理やり起こし、タクシーを拾って自宅マンションに戻った。オートロックのドアを抜け、エレベーターに乗り、静まり返った廊下を歩く。鍵を開けてリビングに入ると、そこには完璧に整えられた、けれど人の温もりのない空間が広がっていた。高層階の窓からは、宝石を散りばめたような夜景が見える。かつては成功の証だと誇らしく思えたその景色が、今はただ、自分の孤独を際立たせるだけのものに感じられた。
買ってきたケーキの箱と、蓮のために選んだおもちゃの袋が、テーブルの上に虚しく置かれている。健太の好きな、あの店のケーキ。蓮がきっと喜ぶだろうと想像して選んだ、最新のヒーローのおもちゃ。それらを見るだけで、胸が張り裂けそうになる。
(新しい、お母さん……)
蓮の無邪気な声が、頭の中で何度も繰り返される。 ゆいちゃんのおかあさん。中村恵。 美奈子は、彼女の顔を思い出そうとした。保育園の送迎で何度か見かけたことがあるはずだ。確か、少し幸薄そうな、控えめな印象の女性だった。彼女が、健太の隣に立ち、蓮の母親になる。自分が捨てた場所で、新しい家族の形が作られていく。
「……っ!」
息が詰まる。喉の奥から、熱い塊が込み上げてくるのを、必死で押さえつけた。 後悔。 その二文字が、巨大な鉛のように美奈子の心にのしかかる。なぜ、あんな過ちを犯してしまったのだろう。なぜ、すぐ隣にあった幸せを、自分の手で壊してしまったのだろう。本郷との刹那的な関係が、こんなにも大きな代償を払うことになるなんて、あの頃は考えもしなかった。
自己嫌悪と、やり場のない怒りが渦巻く。健太への怒りではない。彼には、新しい幸せを見つける権利がある。蓮を大切に育ててくれていることには、感謝しかない。怒りの矛先は、すべて自分自身に向いていた。愚かで、傲慢で、どうしようもなく身勝手だった過去の自分へ。
膝から崩れ落ちるように、美奈子はリビングの床に座り込んだ。フローリングの冷たさが、薄いワンピース越しに伝わってくる。
(もう、会えないんだ……)
月に一度の、あの短い時間だけが、美奈子と「家族」とをつなぐ唯一の糸だった。それすらも、今日、断ち切られた。もう、蓮の成長を間近で感じることはできない。運動会で走る姿も、誕生日を一緒に祝うことも。健太と、他愛ない会話を交わすことも。すべて、失われた。
その瞬間、抑えていた感情の堰が、ついに決壊した。 「あ……ああ……っ」 声にならない声が漏れる。それはやがて、嗚咽に変わり、とめどなく涙が溢れ出した。床に突っ伏し、子供のように声を上げて泣いた。失ったものの大きさ、取り返しのつかない過去、そして、これから永遠に続くであろう孤独。そのすべてが、慟哭となって美奈子の体を震わせた。
華やかな夜景を背に、高級マンションの一室で、美奈子はただ一人、泣き続けた。それは、過去への決別でも、未来への希望でもない。ただ、ひたすらに深い、静寂の中の慟哭だった。最後の面会日は、こうして終わった。